Eli’s note from MILANO #9 『デザインに魅了される数日間。ミラノサローネ 2023 最新レポート』
こんにちは!ミラノ在住、インポート雑貨バイヤーのEliです。
ミラノはすっかり初夏の雰囲気で、最近は日の入りの時刻が21時頃に。
夕方が過ぎても明るいので、屋外でのイベントなどが盛んになり、街全体が活気づいてきました。
今回は、先月イタリア・ミラノにて開催されたデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」についてレポートをお届け。
世界最大規模の国際家具見本市「ミラノサローネ」及びミラノ市内全体で開催された「フオリサローネ」について、気になったものをピックアップしてご紹介します。
デザイン大国とも言われるイタリア・ミラノに、世界中からあらゆる企業やデザイナーが4月に集結するのはなんと4年ぶり。今年は例年以上の盛り上がりを見せてくれました!
ミラノデザインウィークとは?
ミラノデザインウィークとは、イタリアのミラノで開催される、国際的なデザインの祭典「ミラノサローネ」という世界最大級の家具見本市と、その期間にミラノ市内各所で開催される様々なイベント「フオリサローネ」の総称です。
毎年、世界中からデザイナー、ブランド、メディア関係者、そしてデザイン愛好家たちが集まり、最新の家具、照明、テキスタイル、空間設計など、あらゆる分野のデザインが展示されます。
毎年、4月の中旬から下旬あたりに開催されるのですが、ここ数年はパンデミックで開催中止になったり、期間をずらしたりと縮小傾向でした。
しかし、第61回目となる今年は、例年通り春に(2023年4月17日~23日)開催されました。
2023年、メインの見本市会場へは30万人を超える来場者を記録(2022年比で15%増)。
世界各国から2,000以上の展示、来場者も全体の半分以上は海外からの訪問だったそうで、パンデミック以前の国際的なデザイン見本市としてのミラノサローネがやっと戻ってきたと感じました。
「ミラノサローネ」と「フオリサローネ」
ミラノサローネ(正式名称は「ミラノ国際家具見本市」、イタリアでは「サローネ・デル・モービレ」と呼ばれています)は1961年に始まって以来、世界中のデザイナーやメーカー、専門家、デザイン愛好家が集まる重要なイベントとなっています。(写真左)
会場はメインの見本市会場の他に、ミラノ市内の複数の場所に広がり、展示会やインスタレーション、シンポジウム、イベントなどが行われます。
主要な展示会としては、ミラノ国際家具見本市のメイン会場があります。
この見本市では、最新の家具やインテリアデザイン製品が展示され、新しいトレンドやイノベーションが紹介されます。
また、サテライト展示会として、フオリサローネと呼ばれるミラノ市内のあらゆる場所で様々なデザイン関連の展示やイベントが行われます。(写真右)
メインの本会場「ミラノサローネ / ミラノ国際家具見本市」
「ミラノサローネ」ことミラノ国際家具見本市は、ミラノの街の中心部から少し離れたRho(ロー)市にある、Fiera Milano(フィエラ・ミラノ)という大きな見本市会場で行われます。その広さはなんと東京ドーム11個分にも相当するそう...!本当に広いのです。
中に入ると家具、照明、空間設計に関連する企業が主に出展しており、じっくり各メーカーの新作などを見ながら商品の説明を聞いたり、商談をしたりすることができるような展示形式。
世界中から多くのメーカーが集まるので、今年のトレンド傾向などをチェックできます。
では、早速今年のミラノサローネの展示で印象に残ったものをいくつかご紹介していきましょう。
1.自然環境の要素を空間に組み込んだデザインや演出
サスティナブルで環境に優しいデザインという概念はここ数年、インテリアデザインの世界で大きなトレンドとなっています。この流れは引き続きますますフォーカスされていくでしょう。
人々の環境への意識が高まるにつれて、サステナブルでエコフレンドリーな製品を求めるようになりました。多くのメーカーは再生可能なエネルギー源を使用し、製造過程での廃棄物を最小限に抑えて、CO2の排出を削減するなどの試みをしたり、デザイナーは積極的に再生可能なエコ素材を使ったりという取り組みに力を入れています。
また、住空間にマテリアルなどで自然の要素を取り入れていくという提案をしているブランドがとても多かった印象です。
2.曲線的でやわらかなフォルム
シャープな直線ではなく、角のないコロンとした曲線的なフォルムの家具が目立ちました。
表面の素材もソフトな印象を与えるようなものが多く、どことなく優しくてリラックスできるようなムード。
3.不規則な樹脂の組み合わせ
全てが樹脂というようなものではなく、不規則な感じで樹脂が使われているダイニングテーブルなどが、ユニークで非常に魅力的でした。
樹脂が入ることで、木材の亀裂などを有効活用できている点もポイント。樹脂は透明度が高く、木材の自然な造形美が楽しめます。
今年は、EUROLUCE(エウロ ルーチェ)も開催
隔年で開催される、EUROLUCE(エウロルーチェ / 国際照明見本市)がミラノサローネの本会場の中のパビリオンで今年は開催されました。
世界中の照明が一気に集まる、華やかな展示は必見。照明の展示会は他の都市でも色々開催されているのですが、このエウロルーチェはインテリアとして誰にでもわかりやすく展示されており、照明の専門知識がなくても楽しめます。
エウロルーチェにて、以前から気になっているブランドZafferano(ザフェラーノ)のスタンド照明を発見。定番モデルのPoldina(ポルディーナ)シリーズと、沢山のアーティストやデザイナーとコラボレーションした作品が展示されていました。
これは個人的な話ですが、実はよく行く雑貨店などでも見かけるたびに気になっていたZafferanoの照明。
寒い冬はキャンドルを楽しみますが、春夏となるとやっぱり暑いかも...ということで、家の中でも気軽に持ち運べて、尚且つ光の調整ができる小さめのポータブルタイプの照明を探していたのです。
そんな私の全ての条件をクリアし、こんなにカラフルで遊び心に富んだ商品ラインナップを目の当たりにしてやはり欲しい!と再確認。
これからの季節は、夜のテラスで涼んだりする機会も多くなるので、屋外でも使えるということに気づき、もう買うしかないと心に決めたのでした。
展示ブースもZafferanoらしさが満載。壁がカラフルなスタンド照明のシルエットでくり抜かれていたりと、ミラノサローネは各メーカーの展示ブースの個性も見どころです!
ミラノ市内各地で開催されるサテライト会場「フオリサローネ」
サテライト会場である、フオリサローネ(Fuori Salone)は、イタリア語で「見本市の外」という意味になります。
元々はメインの会場だけで行われていたミラノサローネ(ミラノ国際家具見本市)。それが注目され、国内外からの来場者が増えていくにつれて、見本市会場に出展できない小規模なブランドやデザイナーが市内でそれぞれ自分たちでも展示やイベントをしていたことが始まりと言われています。
そんなミラノサローネのサブ的な存在だったフオリサローネも、現在は本会場にひけをとらない盛況ぶり。家具やインテリアだけでなく、ありとあらゆる業種のイベントが開催されています。これらの一連のデザイン関連のイベントや展示をフオリサローネと呼んでいます。
ミラノサローネと同じく、ミラノを世界的なデザインの中心地として位置付けてるフオリサローネ。ミラノサローネと同じ期間に開催されるため、多くの訪問者やデザイン関係者がミラノ市内の様々な場所を巡回し、デザインの最新トレンドやアイデアを体験することができます。
各ブランドや企業などが独自にイベントを開催しているので、イベントの数や来場者数をはっきり把握することはできないのですが、公式イベントとして発表されているもので約950イベント。
街全体が賑やかで、今年もとても沢山の人が参加していました。
美術館など、ミラノ市内の建物も展示会場に。
フオリサローネでは、ミラノ市内のさまざまな地区や建物がデザイン展示の会場として使用されます。これらの会場では、家具、照明、テキスタイル、工業デザインなど、さまざまな分野のデザインが展示されます。(写真:ブレラ美術館)
一般的には、デザインブランドやデザイナーによる新製品の発表やコンセプトの展示、インスタレーション、著名なデザイナーによるトークイベントやワークショップなどが行われます。(写真左:SUPER STUDIOの展示にて / 写真右:Cassinaの展示にて)
その数は何千ものイベント数になるので、1週間で全て見てまわるのは至難の業。(写真:MISSONIの展示)
普段は一般公開されていないような歴史的なお屋敷などが会場になっていたり、デザインはもちろんのこと、ミラノの街そのものを楽しむのに最高の1週間となります!
今回も素晴らしいイベントがたくさんあったのですが、その中から厳選していくつかご紹介していきます。
DIOR MAISON(ディオール メゾン)
昨年から始まった、ディオールメゾンとフィリップスタルクのコラボレーションの2023年新作アームチェアMonsieur Dior(ムッシュ ディオール)のインスタレーション。
歴史地区のブレラにある、18世紀に建てられたミラノのバロック様式の古典的な貴族建築、Palazzo Citterio(チッテリオ宮殿)で開催されました。
様々な素材と色とりどりのチェアが天井から吊るされ、上下に動きながら回っていく演出は圧巻。まるで舞台を見ているような、壮大な空気感でした。
HERMES(エルメス)
エルメスは、毎年ミラノの歴史地区ブレラの中心にある、1940年代半ばにペロタの競技場として誕生し、現在はイベントなどが行われているスペースで、家具やランプ・ブランケットなどのホームコレクションを発表しています。
今年は、コンクリートの台座に固定された鉄筋の構造の中で展示を行っていました。
普段はコンクリートのなかに隠れているはずの鉄筋を剥き出しにすることで、展示構造の本質と純粋さを強調し、それはエルメスの手作りの作品の本質的な美しさと共通することを表現していました。
シンプルな展示が、エルメスのエレガントな作品を一層際立たせていたのが印象的でした。
ARMANI CASA(アルマーニ カーザ)
イタリアファッション界の重鎮、ジョルジオ・アルマーニの所有する、ミラノの中心部にあるPalazzo Orsini(オルシーニ宮殿)で行われたARMANI CASAコレクションの展示。
オルシーニ宮殿は17世紀後半に建てられたネオクラシック様式の宮殿で、アルマーニの本社として使われています。
ミラノサローネでオルシーニ宮殿が公開されるのは初めてだったので、その美しい宮殿でどのような展示をするのかと話題になり、入場に長蛇の列ができていました。普段は外から見ることのできない美しい中庭に、ブランド初のアウトドア家具がエレガントに配置され、宮殿の中は家具や調度品が飾られました。
ショップやショールームでは味わえない、アルマーニの美意識を360度堪能できるのも、フオリサローネならでは。
ALCOVA(アルコヴァ)
ここ数年のフオリサローネで、見逃せない場所の1つとなった、ALCOVA(アルコヴァ)。私たちの想像を超えるニッチな会場とユニークで前衛的なコンセプトで毎回話題になっています。
ALCOVA(アルコヴァ)は、暮らしとものづくりの未来を探求するデザイナーや企業のためのプラットフォーム。2018年に設立されてから、今回5回目の展示会場となったのは、なんとEX MACELLO(屠畜場跡地)。かつて食肉処理場だった建物がそのまま放置されて、植物が生い茂っている感じの、普段は一般公開されていないちょっとゾクっとするような場所です。
街の中心から少し離れたエリアにもかかわらず、朝の開場30分前に到着した私たちの前には、すでに数百人の列ができていました。
新進気鋭のデザイナー、アーティスト、ギャラリー、学校、大小問わず企業、現在生み出されている最も先進的なデザインにスポットライトを当てて、毎回コンセプチュアルで興味深い展示をしているALCOVA(アルコヴァ)は、ミラノデザインウィークのなかでも存在感を放っていました。
今回は、世界各国から100以上の出展者が参加しています。
ROSSANA ORLANDI(ロッサーナ・オルランディ)
世界中のクリエイティブの拠点として20年以上ミラノデザインウィークで展示を続けているRossana Orlandi(ロッサーナ・オルランディ)のギャラリー。以前、インスタグラムでも「ミラノ散歩」のコーナーで少しだけご紹介しましたね。
2022年にはCompasso d’Oro(コンパッソ・ドーロ「黄金のコンパス」を意味する、イタリアで権威あるデザイン賞)を受賞したロッサーナ・オルランディのキュレーションで、今年は30カ国以上のスタイル、文化、伝統を取り入れた80人のデザイナーやアーティストが参加した芸術的な展示です。
見た目と質感にギャップのある作品がいくつかあり、こちらはガラスのように見えますが、触るとぐにゃっと柔らかなシリコンでできています。(Alessandro Ciffoの作品)
古代ギリシャの工芸品からインスピレーションを受けて形取られたこの作品は、デジタル的な工程でつくられ、粘土のかわりに使用されているのはシリコン。「超現代的な工芸品」という古いけれど未来的、といった少しSF的なストーリーが隠されています。
閑静なマジェンタ地区に位置する、元ネクタイ工場の跡地を改装して作られたスタイリッシュなギャラリー空間では、普段は一般公開されていないエリアでも展示が行われており、見応えがありました。
壁に敷き詰められているのは、ネクタイ工場だった名残の箱たち。
ここにネクタイをストックしていたのでしょうか?元々あったものを粋に、オシャレに利用しているのが素敵です。
参加するだけで感性が刺激される、ミラノデザインウィークの魅力
ミラノデザインウィークの魅力は、ただ見るだけでなく、参加者たちが感性を刺激されることにあります。
展示されている作品やコンセプトは洗練されたセンスと美意識に溢れ、世界中のデザイン愛好家たちを魅了してやみません。それらを自分なりに解釈し、最新のトレンドを学ぶことにより、自分自身のセンスが磨かれていくような感覚を体感できます。
また、期間中は展示会場だけでなく街全体がデザインの舞台となります。美しい街並みや建築物が美術館やショーケースに変身することで、クリエイティブなエネルギーに溢れるミラノの街。
そんな街中を歩き回ること自体も、様々なインスピレーションを与えてくれるのです。
参加するだけで感覚が研ぎ澄まされていく、ミラノデザインウィーク。
機会があればぜひ参加して、洗練された美の世界に一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
それではまた次回!