Eli’s note from MILANO #16 『Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)2024 冬 最新レポート<後編>』
前編ではMaison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)の概要と、今回のテーマを展示している「INSPIRE ME!」フォーラムについてお届けしました。
後編では、トレンドや印象的だったプロジェクトをご紹介していきます。
▶Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)2024 冬 最新レポート<前編>はこちら
ではさっそく、WHAT'S NEWエリアを探索して、実際のトレンドを感じてみましょう。
WHAT'S NEW? IN DECOR By Elisabeth Leriche(エリザベス・ルリッシュ)
インテリアのトレンドセッターとして活躍する Elisabeth Leriche(エリザベス・ルリッシュ)が デザインするこのスペースでは、明日の世界のインテリアのデコレーションのトレンドとなる、色や素材に迫ります。トレンド、 空間演出、クリエイティブディレクションの専門家と して彼女がセレクトしたスタイルや新しいアイテム は、インテリアデザイナー、バイヤー、デザイナーの 道標となります。
今回はここでもM&Oの全体テーマ「TECH EDEN(テック・エデン)」をベースに、テクノロジーと自然が結びついた「NOUVEAUX MONDES (新しい世界)」と題したプレゼンテーションを行っていました。エデン(楽園)のような魅力的な日常を過ごすためには、自然の要素が必要であると考え、インテリアデコレーションで自然界の楽園のような世界観を表現していました。
地球上で最も美しく大切な自然の要素を「植物」、「深海」、「砂漠」の3つとし、それぞれのストーリーで展示が行われていました。
STORY1
META VEGETAL「植物」
「完全に自然の中に浸っているように感じてもらいたい」という思いから、Douanier Rousseau(ドゥアニエ・ルソー)の絵画や、豊かな自然をイメージして作られたこのエリア。
Trend Point 1. 植物モチーフや緑色の壁紙
家の壁紙を、原生林のようなモチーフの柄にしたり、緑色を使ったりするのは、お部屋の印象を今っぽく変えることができるので取り入れやすいです。
Trend Point 2. 緑色 x 紫の色合わせ、大胆なパターンのミックス
インテリアのカラートレンドとして、緑色は常に人気の色。何色と合わせるかが注目すべき点です。
今回の展示では、緑色を紫系の色と大胆にミックスしています。「この組み合わせは、お互いを補い合い、豊かにする色」とエリザベスは語っています。
最近、若いクリエーターの間で、この珍しい配色を伝統的な花柄や幾何学模様で大胆に組み合わせる手法が注目されています。
Trend Point 3. 植物モチーフのオブジェ
植物のモチーフがトレンドとなっているのは、陶器、ガラス、食器などにも反映されています。
STORY2
DEEP SEA「深海」
海底を表現した、深海の部屋。自分が美しい海底をゆらゆらと浮いているかのように錯覚してしまうプレゼンテーションが印象的。
Trend Point 1. 海の生物・植物モチーフのオブジェ
美しい海の生物や植物からインスピレーションを受けているオブジェもトレンドとなっています。特に、クラゲや珊瑚、貝殻などをモチーフとしたオブジェが多く見られます。
Trend Point 2. 新しいアプローチのリサイクル、サステナビリティー
最近の現代的な創作物は、自然からインスピレーションを受けているものが少なくありません。その中でも、海や海底はクリエイターにとって無限のインスピレーションの源でもあります。まだ私たち人間の未踏の地である海底。自然と海洋を保護する重要性が感じられる、貝殻などを使った素材作りをしている新しい企業についても紹介していました。
▶︎Ostrea(オストレア)
Ostrea(オストレア)では、牡蠣などの貝殻がリサイクルされず、廃棄物として埋められている現状を知り、廃棄物ではなく、資源として貝殻を利用し、環境に優しい新しい素材を開発しました。65%リサイクルされた貝殻とミネラル・マトリックスから作られており、石油由来成分は一切無添加。低炭素でリサイクルが可能です。
▶︎STUDIO TOMATIS(スタジオ トマティス)
工業デザイナーであり、バイオマテリアルの研究者であるSamuel Tomatis(サミュエル・トマティス)。緑藻類を接着剤や添加物を使用せず、100%天然の素材に変身させたそう。藻類を廃棄物ではなく、柔軟性のある素材や、強い素材の原材料として使用しています。それらは、家具、食品の容器、藤細工、包装、レンガなど、驚くほど様々なものに使われています。
藻からこのような硬い素材ができるということが斬新で驚いてしまいました!今までにない、新しい方法でのリサイクル素材の開発やサステナビリティに大きな可能性を感じます。
STORY3
MINERAL DESERT「砂漠」
「砂漠」をテーマに、ミネラルカラーで統一されたインテリアデコレーションの展示。鉱物などの重めのマテリアルを使ったオブジェや焼き物など、どっしりとした質量と安定感のある雰囲気が漂っていました。
Trend Point 1. 守られているような安心感
砂漠には保護というイメージがあり、砂漠の中のテント のようなセットは安心感を表現しています。暖かく、地平線の開放感や瞑想的で穏やかな砂漠の側面も感じられます。 砂丘を思い出させるようなテラコッタ、オークル、砂など、非常に自然な色だけで作られたやわらかな雰囲気です。
Trend Point 2. テキスタイルで演出する心地よさ
オーガニックなオブジェクト、カシミヤ・フェルト・リネンなどの柔らかなテキスタイルを多く使い「心地良さ」 を演出。包み込まれているような安心感が表現されており、インテリアの一部に「心地よいもの」を取り入れるのがトレンドです。
Trend Point 3. やさしい色合いのオブジェ
時として、自然の厳しさを感じさせる砂漠。しかしそこからインスピレーションを得て、それらを屋内に取り入れ ぬくもりを感じることもできます。オークル、アース、サンド、レンガ色などの色調を持つやさしい色合いの オブジェが多く見られました。あまり加工せず、自然の風合いを残した土や石などの素材もトレンドです。
これで、今年のトレンドの方向性がなんとなく掴めたと思います。キーワードは、「自然」ですね。
次は、様々なプロジェクトが開催されたM&Oの中で、最も印象的だったものを紹介していきます。
THE DESIGNER OF THE YEAR (デザイナー・オブ・ザ イヤー)
今年最も輝いていたデザイナーをM&Oが選出。
今年の受賞者は、Matthieu Lehanneur (マチュー・レアヌール) / フランス。
このプロジェクトでは、回顧展のようにこれまでデザインしてきた作品を並べるのではなく、新しいプロジェクトを発表していました。
*写真の出典 M&Oオフィシャルサイトより
プロジェクト:Outonomy(アウトノミー)
ここでの挑戦は、私たちのニーズと現在のテクノロジーを融合させること。ノスタルジックになったり、過去に戻ろうとしたりするのではなく、「本当に必要なものは何か?」という問いにこたえることを目指しています。
Outonomy(アウトノミー)プロジェクトは、現代の人間が自然を支配するという現代の表現から離れ、自然との相互作用を再考することを提案。「最小限かつ最適な生き方」に焦点を当てています。
完全な自給自足を目指さずとも、自立への願望は基本的欲求の柱を考えなければならないことを意味する。私たちの食料、エネルギー、活動、安全、そして快適さ。
最終的に、アウトノミーは、私たちが元の洞窟に戻る可能性を秘めながら、もはやそれなしでは生きられない「快適さ」をもたらすことなのです。
※ 原文より一部抜粋
黄色の板で覆われた小さな家は、明るくポジティブでありながら静かな空間。コンパクトな家の中に、最小限で快適に暮らせるものが揃っていました。
屋内からも大きな天窓によって空を見上げることのできる開放的な居住スペースがあり、ペットの金魚がいます。屋外にはリラックスできるソファーとエクササイズエリアがあります。一つひとつの要素に、こんな家で暮らしてみたいと思う気持ちの良い空間でした。
別世界のような明るい黄色の空間が「こんな暮らしもあるよ!あなたはどうしたいの?」と、強烈にメッセージを発信しているような気がして、「もし、今の生活圏から離れるとしたら私は何を持っていくだろう」と想像を掻き立てられました。
普段、快適さも生きづらさも全て受け入れていた私に「どのように生きたいのか」ということを考えるきっかけを与えてくれた、印象的なプロジェクトでした。
(写真:外観)
黄色い板で覆われた、小さな家の外観。庭にはソファーやベンチ、金魚の泳いでいる大きなプール、サンドバックが置かれたエクササイズスペースなどがありました。
(写真:内観)
コンパクトでありながら、大きな天窓からは光が差し込みます。開放感があり、丸い曲線の壁に安心感を感じました。
Matthieu Lehanneur (マチュー・ルアヌール)
Matthieu Lehanneur (マチュー・ルアヌール)は、革新的なデザインでニューヨーク近代美術館に認められ、2001 年に自身のスタジオを設立。家具と空間レイアウトを専門としていたが、2015 年にファーウェイのチーフデザイナーに就任。空気清浄機のAndreaシリーズが大きな成功をおさめる。今年のM&Oデザイナー・オブ・ザ・イヤーの称号に加えて、2024 年パリ大会のオリンピック聖火のデザインでも話題に。
PICK UP! 今シーズンの気になるトレンドキーワード
前述のWhat's Newでも、多くのトレンドポイントを挙げましたが、私たちが他にも気になったものを紹介します!
有機的な曲線は2024年も引き続き人気
オブジェや家具は、さらに丸みを帯び、ソフトな印象です。屋内、屋外ともに、丸みのあるものが目立っていました。また、少しレトロな雰囲気をまとったものも。カラーは、やさしい色合いが旬。
洗練された民族柄やヴィンテージ風のオブジェクト
小物は民族衣装を彷彿とさせるようなものや、ヴィンテージっぽい小物と合わせるのも素敵ですね。
石、大理石、トラバーチン
これらも先シーズンから引き続き人気がありました。
進化するウェルビーイングプロダクト
先シーズンから始まったウェルビーイングの展示スペースはより 拡大しており、人々の関心は健やかで心地の良い生活を求める 方向へ向かっていると感じます。オブジェクトを通じて、精神的な満足や豊かさも同時に感じられるというのがポイントのようです。 また、これからのウェルビーイングプロダクトは「単なるリラックス」 から一歩進んだところへ向かうのでは、と考えています。科学やテクノロジーの力を使い、様々な方向から今までになかった癒しを実現 するオブジェクトが増えていきそうで楽しみです。
環境に対する配慮はスタンダードに
「サステナビリティ」や「環境への責任」は今や特別ではなく、多くの 企業が当たり前のようにこの観点を持って商品作りに取り組んでいると感じました。
今シーズンは伝統的な職人技とテクノロジーをミックスさせたり、 リサイクル素材の開発などの取り組みが活発で、美的にも優れたものが発表されていました。
写真は、廃プラスティックをリサイクルした 大理石のような見た目の「21世紀の大理石」と呼ばれる素材です。
終わりに
過去数年のパンデミックによる行動規制の影響で、M&O公式ウェブサイトなどのオンライン上で楽しめるコンテンツが増えました。「実際に訪問 しなくてもかなりの情報が得られる」と思ったこともありましたが、実際の展示は体験型のものが多かったり、会場にいないと聴くことができないカンファレンスなども充実。オンラインとオフライン の両方で訪れる価値のある展示会だと再確認しました。
アジアからの訪問者や出展者も徐々に戻ってきており、日本企業や日本のビジターも増えていました。日本の伝統工芸やものづくりを海外に発信しようと頑張っている企業や団体が目立っていたのが、個人的にはとても嬉しかったです。
長いレポートとなりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
ではまた次回!
今回のMaison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)について詳しく知りたい方はこちらをチェックしてみてくださいね。
今年の1月にドイツで行われたHeimtextileについても載せておりますので、ファブリックのトレンドも一緒にチェックできますよ。