
トレヴィーゾ便り #6「暮らしの美学が息づく家:アンナリーザさんの邸宅訪問」
皆さん、こんにちは。トレヴィーゾ在住のミナミです。
今回は、イタリアの友人、アンナリーザさんの素敵なお宅をご紹介します。
アンナリーザさんは理学療法士として働く一方、地域で文化イベントを企画・運営するカルチャーセンターのオーナーでもあります。
日々忙しくも充実した暮らしを送る彼女のご自宅は、そのライフスタイルを映し出すような、美意識と心地よさが融合した空間です。
彼女の邸宅は、トレヴィーゾ郊外にある広大な敷地内に建てられています。
敷地面積は約10,000平米(約1ヘクタール)で、日本でいう野球のグラウンドくらいの広さです。
建物は3階建てで、総面積は約800平米にもなります。
約20年前、彼女のご家族がこの土地に家を建て構築してきたインテリアやお庭を中心に、北イタリアの豊かな暮らしをちょっぴり覗いてみましょう。
緑に囲まれた外観とテラス

中庭から見える外観は、緑に囲まれた静かな佇まい。
外壁の一部はツタで覆われており、自然との調和を感じさせます。
家族の温もりを感じる玄関

玄関を入ってすぐに目に入るのは、家族の思い出が詰まった写真たち。
大小さまざまな額縁に入った写真が抜群のセンスで配置された、ひときわ目を引くギャラリーウォールです。
その横には、大きなガラスの窓があり、テラスとお庭が見えます。
屋内にいても、緑を身近に感じることができます。
広々としたリビングルーム

2階から見下ろすリビングルームは、白を基調とした広々とした空間です。
各エリアに置かれた複数のラグは、視覚的にスペースの区切りを生み出しています。

三面に配された窓が印象的で、開放感があります。
白いカーテンから自然光がたっぷりと降り注ぎ、明るい空間に。
室内には重厚な石造りの暖炉や絵画が飾られ、上品なインテリアのアクセントとなっています。

リビングに置かれた、ふたつのガラス製ショーケース。
精巧なベネチアングラスのコレクションが綺麗に飾られています。

壁一面を埋め尽くす本棚には、書籍がぎっしりと詰まっています。
アートや哲学、百科事典など、さまざまなジャンルにわたります。

こちらがアンナリーザさんと、飼い猫のアメリちゃん。
ゆったりとしたアームチェアと、部屋をやさしく照らすフロアランプが配置されたこの場所は、まさに心安らぐパーソナルスペース。
毎朝ここで読書をするのが日課だそうです。
アンナリーザさんが最近読んだ本のお気に入りは、以下の3冊。
・Romain Gary (ロメインガリィ氏)の「“La vita davanti a sé “(人生は自分の前にある) 」
・村上春樹氏の「ノルウェイの森」
・川上未映子氏の「乳と卵」
美術品が彩る階段

階段の踊り場は、まるで小さな美術館のよう。
そこには、彼女がアジア各地を旅して集めた小物が並べられています。
また、画家であったお母様の作品も展示されており、空間に独特の趣を添えています。

こちらは、アンナリーザさんがご自身で描かれた墨絵。
趣味で墨絵の技術を習得されたそうです。
イタリアの伝統が息づくダイニング・キッチン

木製テーブルが中心に置かれたダイニングルーム。
美しい花が飾られ、部屋全体に彩りを添えています。
暖炉と薪ストーブがあり、秋冬の寒い時期には、ここで簡単な料理をすることもあるそうです。

白を基調にしたキッチンは、お庭を望む大きな窓が印象的。
窓から見える豊かな緑が、まるで絵画のように室内に広がり、料理をする時間をより一層豊かなものにしてくれそうです。
シンクは洗い用とすすぎ用に二つに分かれており、これは食器の衛生管理や効率的な作業を重視する、イタリア式の伝統的なスタイルです。

コンロの上には、イタリアの家庭でおなじみのBialettiのモカポットが置かれており、日常に根付いたイタリアのコーヒー文化を感じさせてくれます。
レンジフードにはニワトリのかわいらしいオブジェが。心が和みますね。

木のぬくもりが感じられる棚には、来客用のグラスがずらりと並べられています。
形状やサイズが異なる多種多様なグラスが用意されており、訪れるゲストへの細やかな気配りが感じられます。
イタリアでは友人や親戚を頻繁に招く習慣があるため、こうした準備は欠かせません。

家の中にあるカーテンは、ほとんどがリネンの手作りなんだそう。
生地の表面には、アンナリーザさんのイニシャルが刺繍されています。
こだわりの寝室とバスルーム

2階には、広々とした印象のベットルーム。
寝具は清潔感のある白でまとめられ、リラックスできる居心地の良い空間に。
足元には異なるオリエンタルデザインのラグが敷かれており、部屋のアクセントとなっています。
この他にも、4つのベットルームがあるそうです。

グレーを基調としたバスルームに、ボルドーカラーの洗面台が素敵なアクセントになっています。
腰掛ける場所の手前にあるのは、イタリアではトイレの常識であるビデです。
これは、日本でいうウォシュレットの手動版にあたります。
イタリアの家庭を訪れてトイレを借りる際には、このビデ用のタオルが用意されることが一般的です。
心を整える瞑想ルーム

こちらは地下にある静かな瞑想ルーム。
部屋の隅では、真っ赤なランプが温かい光を放っています。
床には複数のラグやクッション、座椅子が配置されており、リラックスして瞑想に集中できる空間が作り出されています。

ここでは、インドのお香を焚きながら瞑想を行い、心を整えているのだとか。
忙しい日常の中でも毎日少しの時間を見つけ、何年もの間、瞑想を続けているそうです。静寂と落ち着きに満ちた、心のための特別な場所です。
自然と歴史が織りなす庭園

テラスの一角には、冬の暖炉で使う薪のストックがありました。
壁に設置されたシンクに、ヴェネツィアの象徴「聖マルコのライオン」が中央に彫られています。

テラスの中央には、黒いダイニングテーブルとアイアン製の椅子が置かれ、お庭で収穫されたばかりの美しいバラが生けられています。
天気の良い日には、このテラスでランチやお茶を楽しむそう。
その穏やかなひとときを、飼い猫のオリーちゃんがのんびりとした様子で見守っていました。
自然と歴史が共存するこの場所に、アンナリーザさんの暮らしがしっかり根付いていることを感じさせます。

広々とした庭は、庭師さんが定期的に手入れに来るので、常に美しく整備されています。
奥にはプールも設けられており、夏になるとお孫さんやお友達が集まって楽しむのだとか。

敷地内には小さなブドウ畑がありました。
青々としたブドウの葉が太陽を浴びて輝き、豊かな実りを感じさせます。
ここで採れたブドウから、毎年ワインが手作りされているとのことです。

庭の奥へと続く緑のアーチをくぐると、その先に現れるのは、静かに佇む美しい石像。
これは、イタリアのヴィラや歴史ある公園でよく見かける、古典様式の女性石像です。
この像は「ヴィーナス・プディカ(Venere Pudica)」と呼ばれ、片手で下腹部を覆う、どこか恥じらいを感じさせるポーズが特徴です。
「プディカ」とはラテン語で「慎み深い」や「恥じらいのある」という意味。
古代ギリシャやローマで信仰された愛と美の女神「ヴィーナス(アフロディーテ)」をモデルにしているといわれています。
歩くたびに小さな発見がある、まさに「暮らしのミュージアム」のような空間でした。
まとめ

アンナリーザさんの邸宅を訪れて感じたのは、単なる華やかさだけではない、深い精神性と豊かな生活の営みでした。
自然と共生し、家族の歴史を大切に受け継ぎながら、ご自身の美意識と心地よさを追求するそのライフスタイルは、まさに「暮らしの美学」そのものです。
瞑想やワイン作り、そして大切な人々と過ごす時間など。
日々のささやかな習慣の中にこそ真の豊かさがあることを教えてくれました。
時の流れをゆっくりと感じさせてくれる、スローライフを象徴した暮らしぶり。
それは、私たち自身の生活を見つめ直し、より充実した日々を送るための大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。