トレヴィーゾ便り#12「北イタリアの山暮らし ― コモ湖の別荘で味わう秋冬のスローライフ」
こんにちは、トレヴィーゾ在住のミナミです。
年末年始も近づき、いよいよ冬の寒さが身に染みる季節になりましたね。
今回は、北イタリア、ロンバルディア州にある我が家の「山の家」での秋冬の過ごし方をご紹介したいと思います。
イタリアでは、およそ14〜15%の家庭が「SECONDA CASA(セコンダ・カーザ)=別荘」を所有しているといわれます。
これは日本と比べると非常に高い割合です。
特に北イタリアでは、山の家を持つことが単なる贅沢ではなく、ひとつの文化や、家族の伝統として深く根付いています。
両親から別荘を受け継ぐこともあれば、賃貸で利用するケースもあり、その形態はさまざまです。
私はコロナ禍をきっかけに、このロンバルディアの山中にあるセコンダ・カーザで二拠点生活をはじめました。
山での暮らしは、眼下に広がる景色を眺めながら自然と一体になれる生活、そしてその土地ならではの文化や風習に触れる喜びを教えてくれました。
ヴェネト州に引っ越した今でも、連休になるとこの山の家で家族と大切な時間を過ごしています。
今回は、そんな我が家の特別な山のライフスタイルを少しだけご紹介させてください。
澄んだ空気と絶景に包まれる山の家

我が家の別荘は、約130年前に建てられた石造りの家をフルリノベーションしたものです。
まさに「自然の中の隠れ家」と呼ぶにふさわしく、周囲1km以内には、ほかの建物は一切ありません。
深い森に囲まれた、静かでプライベートな空間です。
家の周りには、広々としたテラスと庭があり、そこでは畑も作って、植物や旬の野菜を育てています。
この環境が、私たち家族に豊かな恵みをもたらしてくれます。

この山の家から見える景色は格別です。
標高2,600mのMonte Legnone(レンニョーネ山)の手前には雄大な雲海が広がり、その隙間からは、キラキラと輝く街の灯や、コモ湖の水面を垣間見ることができます。
特に冬の朝、一面の雪景色を眺める時間は、何度経験しても息をのむような美しさです。

今年は例年より早く、11月下旬に初雪を迎えました。
庭もすっかり雪に覆われ、真っ白な世界が広がっています。
この山には野生の鹿や猪が生息しているため、敷地内には彼らから畑や庭を守るためのフェンスを立てています。
秋の味覚を探しながら山歩き

天気の良い日には、家族みんなで「Panino(パニーノ)=イタリア風サンドイッチ」を準備し、いざ山の頂上へ。
澄み切った空の下、山道を登るのは、最高の気分転換です。
子どもたちの小さな足に合わせてゆっくりと、ときには立ち止まって…。
自然を肌で感じながら頂上を目指します。
子どもたちにとっても、自然に触れ合ういい機会です。

そして、たどり着いた山頂で待っているのは、息をのむような大パノラマ!
家族で腰を下ろし、冷たい山あいの空気を吸い込みながら食べるパニーノの味は格別です。

11月に入ると、落ちた甘い栗の香りに誘われ、放牧されているヤギたちが現れます。
散歩中に近くで遭遇することもあり、その愛らしい姿に癒されます。
この時期ならではのご褒美は、山の栗を食べて育ったヤギのミルクから作られる「ペコリーノチーズ」。
濃厚かつ爽やかな風味には思わず笑みがこぼれてしまうほど。秋の夜を彩る、贅沢なひとときです。

山ではこの時期、たくさんのキノコが採れます。
私のお気に入りは、「Mazzo di Tamburo(マッツァ・ディ・タンブロ)」(日本名:オオシロホウライタケ)。
軽く茹でてオリーブオイルで炒めたり、衣をつけて揚げると、その豊かな香りが一層引き立ちます。
運が良ければ、日本でも最高級食材として知られるポルチーニ茸と出会えることも。
イタリアでは、キノコ狩りには地域の許可や量の制限が設けられており、一般的には1人1日3kgまでというルールがあります。
また、キノコ狩りに行くときは、ビニールの袋ではなく、かごを使うことも山のルールのひとつです。
これは、キノコの胞子を落としながら歩くことで、翌年の発生を促すという、自然への感謝と配慮の文化が根付いているからです。
私たちは、この「自然の恵みをいただくからこそ、ルールを大切にする」という文化を尊重し、キノコ狩りのついでに、山のゴミ拾いも心がけています。
秋の恒例・栗拾いとマロンクリーム作り

秋の山暮らしで欠かせないのが、なんといっても「栗拾い」です。
毎年、家族みんなで協力し、10kgを超える大量の栗を収穫します。
子どもたちにとっては、落ち葉を踏みしめながら栗を探す、わくわくするイベントです!
【栗拾いの注意点】
地域によっては、他人の私有地や国有地での無断での大量採取は禁止されていますので、ルールを守って楽しむことが大切です。

家に持ち帰った栗は、まず水に漬けてしっかりと虫抜きをします。
その後、ひとつひとつ手にとって、大きさごとに焼き栗用、料理用、マロンクリーム用に仕分けていく作業が、我が家の恒例行事。
そして、仕分けのときに弾かれた穴の空いた栗は、近所のヤギたちへのお土産として持っていきます。
この「無駄なく自然の恵みを循環させる」知恵は、地域の人たちに教わった大切な教えのひとつです。
このように、山の恵みを余すことなく活かすことが、この土地での豊かな生活につながっています。

秋の収穫の締めくくりは、近所のおばあちゃんから教えてもらった秘伝のレシピで作る、自家製マロンクリーム。
本当に時間がかかり大変な作業ですが、私たちはこの時間を大切にしています。
家族みんなでお喋りをしながら皮をひとつひとつ剥いて仕込む時間こそが、楽しい思い出を作る大切なひとときです。
完成したマロンクリームは、クリスマスに親族や友人への心のこもったプレゼントになります。
瓶詰めに使うかわいらしい保存瓶は、この季節になるとイタリアのスーパーや日用品店で大量に売り出されます。

前回の記事でも少しご紹介しましたが、この時期はクリスマスの準備も始まります。
庭で採れたもみの木や南天の実を使って手作りしたリースをキャンドル立てにして、テーブルを飾るのが毎年の楽しみです。
そして、そのテーブルでいただくのは、もちろん自家製マロンクリームを使った、マロンクリームパイ!
10月になると、テーブルクロスを赤のタータンチェックに変え、気分はすっかりクリスマスモードに。
自然の恵みと手作りのあたたかさに包まれた空間で、家族と過ごすひとときは、本当に幸せな時間です。
自然と食を味わうアウトドアランチ

寒さが身に染みる季節ですが、天気のいいお昼は外でバーベキューを楽しみます。
この日のメインは、「Lenticche(レンテッケ)=レンズ豆」と野菜をじっくり煮込んだ煮込み料理と、ジューシーな焼きソーセージ。
そしてサイドには、焼いたパンの上にとれたてのキノコやトマトとハーブ、オリーブオイルをたっぷりかけた「Bulsuchetta(ブルスケッタ)」を添えました。
もちろん、この山の豊かな恵みの料理には、美味しいワインが欠かせません。
冷たい空気の中で味わう熱々の料理とワインは、身体にしみわたるような美味しさです!

山の家での毎回の楽しみは、広々とした庭で育てている木の枝やお花を摘むことです。
その季節ならではの美しい花やグリーンをカゴいっぱいに摘み、毎回、トレヴィーゾの自宅まで持ち帰ります。
山の家で過ごした豊かな時間の記憶を、日常の空間に持ち帰るささやかな儀式です。

天気のいい日は、広々としたテラスが私たちの特等席。
澄み切った空気の中で読書をしたり、望遠鏡を使って遠くの野鳥や野生の鹿を観察したり…。
時間がゆっくりと流れるこの場所で、ぽかぽかとあたたかい陽だまりに包まれながら揺れるロッキングチェアでのお昼寝は、まさに至福のひとときです。
インテリアとお気に入りに囲まれた山時間
山の家は、私にとって「自分に戻れる場所」です。
普段の慌ただしい毎日から少し離れ、ここでは静かで丁寧な時間を味わうことができます。
この家では、日常を豊かにするために、あえて特別なアイテムを使うように心がけています。

昔パリで購入した、クリストフルのアンティークの銀のスプーンを、たまにしか来れないこの家では丁寧に特別なものとして使います。
食器を変えるだけでも、気持ちが豊かになります。

ここで使う花瓶たちも、お気に入りのものばかり。
左から3つは、ミラノの陶芸家 Guido de Zan(グイド・デザン)氏の作品、白い小さな一輪挿しは日本から持ってきたもの。
街の家では使わない特別なアイテムを、ここでは日常使いしています。

木製のアンティーク食器棚には、日本から持ってきた和食器や、ヨーロッパ中で集めた思い入れのあるお皿、コーヒーカップを収納しています。

壁は自分たちでモスグリーンに塗り替え、世界各地を旅行した際に集めたプレートを飾っています。
少しずつコレクションが増えていくのも楽しみのひとつです。

2階の寝室は、白と木の色で統一された、ホッと息をつける空間。
ベッドリネンは、義母から受け継いだ大切な麻のシーツを使っています。
バルコニーから一望できるコモ湖と山の景色は、ここでしか味わえない最高の贈り物です。

抹茶と手作りの和菓子をいただく午後は、山での大切な気分転換の時間です。
イタリアに住んでると、ときどき日本が恋しくなり、日本文化を感じたくなるのは海外在住者「あるある」ですね。
写真だけを見ると夢のような別荘生活ですが、実は山暮らしにはたくさんの現実もあります。
庭仕事、薪の準備、掃除、雪対策、家のメンテナンスなど…。
毎回訪れるたびに仕事があり、季節ごとにやるべきことも変わります。
それでも、自然と真摯に向き合いながら暮らすことで、季節の移ろいをより深く感じ、家族との時間もゆっくり流れていく。
この豊かな暮らしこそが、山の家がくれる最大の恵みだと感じています。
まとめ
我が家の北イタリアでの山暮らしはいかがでしたでしょうか?
この暮らしの魅力は、華やかなリゾートライフというよりも、「自然の中で、自分を取り戻す静かな時間」にあると感じています。
街の便利さから少し離れて耳を澄ませば、森の香り、パチパチと弾ける薪の音、冷たい空気の中でいただく温かいお茶の温もり。
どれも何気ない瞬間ですが、忙しい日常では忘れがちな「心の余白」を思い出させてくれます。
これから冬本番を迎えるイタリア。
みなさまも、どうぞあたたかいクリスマスと年末年始をお迎えください。
