トレヴィーゾ便り#15「イタリア流カーテン作りのヒント~機能は外、美しさは内側に~」
みなさん、こんにちは。トレヴィーゾ在住のミナミです。
カレンダーが3月の後半へと進み、日本では桜の開花予想が聞かれるようになってきた頃でしょうか。
イタリアの街並みも、少しずつ春の装いへと移り変わっています。
さて、今回のテーマは住まいを彩る「カーテン」について。
実は私、自他ともに認める「インテリア好き」で、お部屋の雰囲気を大きく変えてくれるファブリックにはつい熱が入ってしまいます。
今回のリビングのカーテン作りにチャレンジしました。
引っ越しから丸1年をかけてようやく完成した、まさに執念の結晶です。
「カーテンひとつにそこまで?」と思われるかもしれませんが、毎日目にする窓辺が整うと、朝起きたときの気分の上がり方が変わります。
1年越しに叶えたわが家の窓辺。
その制作過程で触れた、イタリアならではのカーテン文化、そして心地よい空間を作るためのヒントをご紹介します。
■ イタリアの窓辺事情

イタリアに暮らしていて驚いたのは、窓辺の整え方が日本と少し違うことでした。
イタリアの家には、窓の外側に「タッパレラ(Tapparalla)」という巻き上げ式のシャッターがあるのが一般的。
強い日差しを遮ったり、防犯や断熱を担ったりと、いわば家のガードマンのような存在です。
「雨戸」のようなものですが、最近の日本の集合住宅などではほとんど見かけなくなりました。
イタリアの場合、光をコントロールする機能性は、すべて窓の外側にお任せ。
一方、室内のカーテンに求められるのは、光を遮ることではなく、光をいかに美しく、やわらかく取り込むかというデザイン性です。
「機能は外に、美しさは内側に」。
この、イタリアならではの知恵を知ったとき、私は自分の悩みに対するヒントをもらったような気がしました。
実は、カーテンのない我が家の窓辺を見るたび、どこか寂しさと壁の圧迫感を感じていたのです。
特に冬の夜、タッパレラを閉め切ると、お部屋が冷たく閉ざされたような暗い印象になってしまうのが悩みでした。
でも、「美しさは内側に」なら、この窓辺にお気に入りのファブリックをまとわせてみたらどうだろう。
布のやわらかな質感が加わるだけで、お部屋の空気までパッと明るく、やさしく変わっていきそうです。
無機質な壁を、お気に入りの「面」に変えていく。
そんなワクワクする窓辺作りが、ここからはじまりました。
■ わが家の挑戦 ― ウェーブ仕上げ

今回、私が叶えたかったのは、天井から床までやわらかな壁があるような佇まいの窓辺でした。
カーテンはひだ山を作らず、布がストンと均一な波状に流れる「ウェーブ仕上げ」に。
布を「吊るす」というよりも、空間の一部として美しく配置する「絵画」という感覚に近いかもしれません。
装飾を削ぎ落としたシンプルさのなかに、凛とした存在感が宿る。
そんな、モダンで開放感のあるスタイルをイメージして計画をスタートさせました。
■ すべてはレールの設計からはじまる

美しいウェーブを実現するために、まずこだわったのが土台となる専用ランナー付きのレール選びです。
※ランナー:カーテンを吊るすための金具がついた、カーテンレールを開け閉めするときの部品
ここで大切にしたのは、窓の大きさに合わせるのではなく、壁の一部としてレールを設置すること。
あえて窓の幅より左右20cmずつ長く設計し、最終的に3m20cmというダイナミックなサイズでオーダーしました。
こうすることで、カーテンを開けたときに布が窓を塞がず、光を最大限に取り込めます。
また、通常は窓枠のすぐ上にレールを付けますが、今回はあえて天井へ直付けしたのもポイント。
視線が上まで抜けることで天井が高く感じられ、空間全体をぐんと広く見せる視覚効果を狙いました。
■ 活気あふれる市場での生地選び

レールの準備が整ったら、次はいよいよ主役となる生地選びです。
向かったのは、週に2回、近所の広場で開かれるにぎやかな朝市。
なんと100軒以上もの露店が並び、そのうち5軒もがカーテン専門店です。
ずらりと並ぶ色とりどりのロール、風に舞う繊細なレース……この光景だけでも、イタリアの窓辺への情熱が伝わってきてワクワクします。
高級なカーテン専門店もステキですが、今回私が選んだのは「自分の目で見極め、できるだけコストを抑えて理想を叶える」という市場スタイル。

理想は、リネンのオフホワイトと決めていましたが、お店の方とあれこれ相談するうちに、運命の出会いがありました。
最終的に選んだのは、リネンにポリエステルを配合した混合素材。
リネン特有のやわらかな透明感と、ポリエステルならではの美しいドレープとシワになりにくい特性。
その両方をいいとこ取りした、まさに理想の生地です!
「ウェーブをキレイに出すなら、幅はレールの2.2倍は必要だよ!」というアドバイスに従い、縫いしろも含めてたっぷり7m10cmを購入。
あわせて、このスタイルの要となる「ウェーブスタイル専用のリボンテープ(カーテン上部に縫い付ける芯地)」も揃えました。
これは、通常のヒダを寄せて作る芯地とは異なり、吊るしたときに自然なウェーブを保ってくれるパーツです。
ずっしりとした生地の重みに「いよいよ形になるんだ!」と胸が高鳴ります。
■ 縫製 ― プロへのバトンタッチ

ずっしりと重みのある広大な生地を生かすには、やはりプロの技術が必要だと思い、街の仕立て職人「サルタ(Sarta)」に縫製をお願いしました。
イタリアでは、服の直しからカーテンの仕立てまで、生活の中の「縫う」ことについて相談できるサルタが街のあちこちにいます。
大型店舗で既製品を買うのとは違い、対話しながら理想のカタチにしていく文化が根付いているのです。
完成した2m58cmの高さのカーテンは、床の直前でピタリと止まる、計算し尽くされた美しさ。
プロの手によって、ただの布が、わが家の暮らしを物語るインテリアへと生まれ変わった瞬間でした。
これこそが、イタリアでオーダーメイドを楽しむ醍醐味かもしれません。
■カーテン取り付け ― 緊張の瞬間

サルタから届いたばかりの、新しいカーテンを広げます。
等間隔に並んだリボンテープに、16センチ刻みで専用フックを丁寧にかけていく作業。
ひとつ、またひとつとフックを通すたびに、「計算通りにウェーブが出るかな?」と、ドキドキしました。
カチッ、カチッという小さな音とともに、平らだった布が立体的な波へと姿を整えていく……。
「うまくいくかな?」という緊張感が、少しずつ「いいかも!」という手応えに変わっていきました。
■完成 ― 光をまとう、新しいわが家の景色

ついに、わが家の新しい窓辺が完成しました!
自分のセンスを信じて選んだ生地、市場での店主のアドバイス、そしてプロのサルタによる確かな技術。
それらすべてが重なり合って、イメージをはるかに超える「理想の景色」が目の前に広がりました。
天井から床まで、途切れることなく流れる美しいウェーブ。
そこへイタリアの春の陽射しが差し込むと、リネン混の生地が光を透かし、お部屋全体をやわらかなベールで包み込んでくれます。
ウェーブが作る陰影は、時間とともにその表情を変え、眺めているだけで心が満たされていくようです。
■番外編 ― 思い出の布をまとう、もうひとつの窓辺

実は、わが家のキッチンには、スッキリとしたスタイルで自作したお気に入りのカーテンがあります。
使ったのは、20年ほど前にフィレンツェで見つけてひと目惚れした「トワルドジュイ」柄のコットン生地。
ずっと大切にしまっていた思い出の布ですが、こうして窓辺を彩るカーテンとして再利用することで、キッチンに立つ時間がぐっと愛おしくなりました。
トレンドのスタイルを取り入れる楽しみもあれば、お気に入りのヴィンテージ布を自分らしくアレンジする楽しみもある。
「機能は外、美しさは内」というイタリア流の考え方をベースに、自由な発想で窓辺を整えることが、自分にとって一番心地よい空間を作る近道なのかもしれません。
おわりに ― 窓辺からはじまる、豊かな暮らし
いかがでしたでしょうか?
理想のカーテンを思い描いてから、計画、生地選び、そしてプロの手を借りた縫製と取り付けまで……。
気がつけば1年近くの月日が流れていましたが、ようやくわが家に「いちばん欲しかった景色」がやってきました。
カーテンの世界は想像以上に奥が深く、ときにはプロの知識や技術に頼ることも大切です。
すべてを完璧にこなそうとするのではなく、自分のこだわりとプロのアドバイスを掛け合わせる。
それこそが、自分らしい理想の空間を叶えるいちばんの近道だと実感しています。
機能は外、美しさは内側に。
そんなイタリア流の自由な発想をヒントに、みなさんもこの春、窓辺を新しく彩ってみませんか?
カーテンが運んでくる光の表情が、毎日の暮らしをきっともっと豊かにしてくれるはず。
みなさんにも、心ときめくステキなカーテンとの出会いがありますように!
